Googleサジェスト汚染とは?サジェスト汚染に関する訴訟と裁判例ついて弁護士が解説!

近年、中小企業における顧客獲得のため、インターネット上での認知度や影響力が重要視されるようになってきました。その中で、GoogleやYahoo!などの検索エンジンで表示されるネガティブなサジェスト、通称「サジェスト汚染」が企業の評判やビジネスに悪影響を与えることが問題となっています。本記事では、Googleにおけるネガティブなサジェストの原因と解決策を紹介します。

1. Googleサジェストとは?

サジェストとは、検索エンジンで文字を入力した際に、関連性の高いキーワードを予測して検索候補として表示する機能です。例えば、検索窓に「東京駅」と入力すると、「東京駅 構内図」「東京駅 グルメ」などが下部に表示されます。

Google公式では「オートコンプリート」と呼ばれており、検索エンジンの利用者が実際に入力しているキーワードや、過去の検索履歴、場所などを基に生成されます。

[1]

2. サジェスト汚染とは?

「サジェスト汚染」とは、検索エンジンで文字を入力した際に、評価をさげてしまうようなネガティブなキーワードやデマ、誹謗中傷に関連する言葉が表示される現象を指します。

サジェスト汚染の例としては検索候補に以下のようなネガティブなキーワードが表示された場合です。

「(社名) パワハラ」

「(社名) ブラック企業」

「(サービス) 詐欺」

「(商品名) 不良品」

「(店名) マズイ」

サジェスト表示の仕組みについては、検索エンジン側が情報を開示していないため、不明点が多いです。しかし、多くの人が検索しているキーワードや、インターネット上に多く投稿、または記載されているキーワードを検索候補に表示される傾向にあります。そのため、検索ニーズの高いワードが表示される仕組みを利用し、「企業名 ネガティブワード」で頻繁に検索したり、掲示板やSNSに「(商品名)は不良品だ」などの投稿を繰り返し行い、キーワードの関連度を上げることで、意図的にサジェストを汚染させることができます。

3. サジェスト汚染は訴えることは可能ですか?

  • 検索エンジンに対する訴訟

 GoogleやYahoo!などの検索エンジンに対しては、「サジェストにおいて表示されるマイナスキーワードの削除」を求める訴訟を提起することが考えられます。

サジェストは、「(会社名) パワハラ」などのただのキーワードの羅列であるため、「検索エンジンのマイナスワードをサジェストする行為が、名誉やプライバシーなどの権利を侵害していると認められるか」という点が問題となります。この点、検索エンジンに対して「サジェストにおいて表示されるマイナスキーワードの表示の差止め」を求めた裁判例[2]によれば、東京地裁での第一審の本案訴訟は請求が認められましたが、控訴審、上告審では請求が認められませんでした[3]。そのため、マイナスワードのサジェストに権利侵害を認めることは難しく、検索エンジンに対して「サジェストにおいて表示されるマイナスキーワードの削除」を求めることはできないと考えられます。裁判例の詳細については下記の「4.サジェスト汚染に関する過去の判例解説」をご参照ください。

  • 投稿者に対する訴訟

あるキーワードに対してマイナスなイメージの単語をサジェストさせることを目的として、「(社名)パワハラ」などの書き込みを繰り返しインターネット上に投稿された場合には、「当該投稿により名誉棄損や脅迫などの権利侵害があった」と主張し、書き込みを行った人物に対して不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。「サジェストが汚染されたこと」を理由に不法行為の成立を主張することや、損害賠償請求をすることはできないので、注意が必要です。

この場合には、まずは投稿者の名前や住所を特定するため、アクセスプロバイダを相手方として「発信者情報開示請求」を行います。発信者情報開示請求により発信者の氏名または名称および住所といった情報を取得したあと、発信者(投稿者)に対して損害賠償請求等を行うことになります。アクセスプロバイダに対する開示請求は原則として訴訟で行い、以下の要件が満たされていると判断された場合、情報が開示されます。

発信者情報開示請求の要件

・「特定電気通信」による情報の流通がなされた場合であること(=不特定の者に受信されることを目的としたインターネット上の投稿であること)

・当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたこと(権利侵害の明白性)

・発信者情報の開示を受ける正当な理由が存在すること

・発信者情報の開示を求める相手方が「開示関係役務提供者」に該当すること(=開示請求の相手方となるプロバイダであること)

・開示を求める情報が「発信者情報」に該当すること

・上記発信者情報を開示関係役務提供者が「保有」していること

発信者情報開示請求により、投稿者の氏名や住所が開示された場合、次に投稿者に対して直接損害賠償請求などを行います。

4. サジェスト汚染に関する過去の判例解説

  • 検索エンジンに対する訴訟(特定のサジェストの削除仮処分命令申立事件)
  • 事案の概要

氏名を検索すると、犯罪を連想させる単語がサジェスト表示されるという事案[4]で、第一審の東京地裁はGoogleにサジェストの削除を認める仮処分決定を出し(東京地裁平成24年3月19日決定)、その結論を本案訴訟の第1審も支持したが、その後控訴棄却(東京高裁平成26年1月15日判決)、上告審では、最高裁平成29年1月31日決定[5]と同時期に上告棄却・不受理決定された事案。

  • 解説

本件は、児童買春で平成23 年11月に逮捕され罰金刑に処されたX が、自分の名前と居住地の県名をキーワードとして検索した際,逮捕に関する検索結果が多数表示されたことから、Googleに対し、(ⅰ)人格権侵害差止請求権を被保全権利として、特定の検索結果につき削除仮処分命令の申立(最高裁平成29年1月31日決定)と、(ⅱ)特定のサジェストの削除仮処分命令申立を行ったうちの(ⅱ)事件です。

サジェストは、検索事業者側にとっては検索エンジンがアルゴリズムに従って機械的に表示しているだけであるため、サジェストが「検索事業者の表現行為」といえるのかが問題となります。また、サジェストによって表示されるのは、「(会社名) パワハラ」などの単語の羅列であることから、「その表示が名誉やプライバシーを侵害といえるのか」という問題もあります。[6]

本件は公刊物未登載のため裁判所の判断の詳細は不明ですが、原告代理人のインタビューによれば、「サジェストは検索事業者の表現行為である」との判断がされたようですが、検索事業者の行為の違法性については、比較衡量の結果、認められませんでした。

検索事業者が検索結果を提供する行為の違法性について、最高裁((ⅰ)事件)は、「当該事実の性質及び内容、当該URL等が提供されることによって当該事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断し、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、上記の者は、上記事業者に対し、当該URL等を検索結果から削除することを求めることができる。」[7]と判断しており、検索事業者がマイナスワードをサジェストする行為の違法性についても、同様の基準が妥当すると考えられます。

  • 投稿者に対する訴訟(不法行為に基づく損害賠償請求事件(東地令和2年2月4日判決[8]))
  • 事案の概要

X(原告)は、a研究所において勤務し、特定の研究室に所属する物理学研究者である。インターネットの匿名掲示板において、いずれも冒頭に原告の氏名の後に「変態」と記載し、その他、女装又はコスプレ(以下「女装等」という。)に関する単語を羅列した約170件の投稿がされた(以下総称して「本件各投稿」という。)。原告は、本件各投稿のうち10件の投稿記事につき発信者情報開示請求訴訟を提起し、うち8件の投稿記事につき、プロバイダから発信者情報の開示を受け、8件に係る発信者情報が全て被告ら(Y1、Y2)に関するものであった(郵便物の送付行為も問題となっているが、本記事には関係がないため省略)。

本件では、①本件各投稿の行為者と、②本件各投稿の違法性、③原告の損害額が争点になった。

  • 判旨

 争点①について

「原告は本件各投稿につき,本件各開示投稿を含む10件を無作為に抽出した上で,発信者情報開示請求を行ったものと認められる。一方で,その結果開示された本件各開示投稿8件は全て被告らに関するものであり…無作為抽出の結果と,開示結果の一致が偶然の結果とは考え難く,本件投稿(約170件)の大部分(少なくとも半数以上)は,被告Y2が行ったものと推認するのが相当である」

 争点②について

「本件各投稿は,全体として,原告につき,「女装」,「コスプレ」等の文言を繰り返し記載することにより,原告が女装等に係る趣味を有している事実を摘示した上で,これにつき「変態」との表現を用いて,原告の性的志向が通常ではない旨の論評を加えたもの…であり,上記の事実摘示及び論評は,なお,原告の社会的評価を低下させるものというべきである。

また,女装等に関する事実は原告の私生活上の事項であり,かつ一般に公開を欲しないと考えられ,また,本件の全証拠によっても,原告の女装につき,一般の人々に未だ知られていない事実と認められる。そうすると,前記で述べた原告の女装等に関する事実の摘示は,原告のプライバシーを侵害するものというべきである。」

争点③について

「被告Y2は,本件各投稿(約170件)の少なくとも半数以上を行ったものと認められる。本件各投稿は,平成30年2月中旬から3月初旬までの約2週間にわたり原告の女装等に関する投稿を集中的に行ったものであり,これにより,一定期間にわたり,原告の氏名について,いわゆるサジェスト汚染の状況が発生したものと推認される…これらの事情に照らせば,本件各投稿により原告に生じた精神的損害に係る慰謝料は,50万円をもって相当と認める。」

  • 解説

 本件は、ある人物が原告のサジェスト汚染を目的として、匿名掲示板において「(原告)女装」、「(原告)変態」などの投稿を約170件行ったという事案です。

このような行為について不法行為(民法709条)が成立するためには、「他人の権利又は法律上保護された利益を侵害」されたことが必要です。そのため、サジェスト汚染を目的に行われた投稿について、名誉毀損やプライバシー侵害が認められる必要があります。

また、判旨の争点③において「被告の行為によりサジェスト汚染が発生した」と認定されているため、サジェストが汚染されたことは、損害額を決定する上での考慮事由にしかならないと考えられます。

5. 弁護士による削除依頼・訴訟対応

 Googleでサジェスト汚染が発生している場合には、Googleの問合せフォームから削除申請を行うことができます。しかし、サジェストや検索結果を削除することは、表現の自由や、インターネット利用者の知る権利の侵害にも繋がることから、削除申請がすべて受け入れられるわけではありません。名誉毀損やプライバシー侵害など、どのような権利侵害があったのかを限られた文字数の中で論理的に説明し、法的根拠に基づいた適切な内容の削除申請を行う必要があります。

弁護士にご依頼いただければ、投稿内容がプライバシーの侵害や名誉毀損など、何らかの権利侵害があるのかどうかを判断し、Googleに対して、被害を受けているといえる根拠を客観的に示して削除請求を行うことができるため、Googleが削除に応じる可能性が高くなります。

 また、発信者情報開示請求についても原則として訴訟で行われるため、権利侵害があったのかなどを法的根拠に基づいて主張していく必要があり、弁護士の助力が必要といえます。

6.まずは弁護士にご相談ください

サジェスト汚染やオンライン評判管理に関する課題は、個人や企業にとって非常に重要な問題ですそのため、適切かつ早急の対応が求められます。そのため、専門家や法律事務所と連携し、継続的なサポートを受けることが望ましいです。

稲葉セントラル法律事務所では中小企業向けを中心に顧問契約を行なっています。

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企業の風評被害トラブルに関する顧問契約について

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▼当事務所での解決事例▼

Google口コミの任意削除が認められた事例(Google自体の削除フォームを利用した事例)

Google Mapsに書き込まれた悪質な口コミの削除に成功した事例


[1] Google 2024年11月12日の検索結果のスクリーンショット

[2] 東京高裁平成26年1月15日判決(公刊物未登載)

[3] 東京弁護士会 LIBRA  Vol.17  No.10( 2017年10月) https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2017_10/p02-24.pdf 

[4] 東京弁護士会・前掲注3)、4頁

[5]裁判所HP https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf 

[6] 東京弁護士会・前掲注3)、10頁

[7] 最高裁・前掲注5)

[8] 東京地判令和2年2月4日(Westlaw Japan文献番号2020WLJPCA02048007)

Last Updated on 2024年12月16日 by kakikomi.iclaw

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    この記事の執筆者:弁護士法人稲葉セントラル法律事務所
    法律事務所でも誹謗中傷トラブルに遭うケースがありますが、弁護士として対応方法は分かっているものの、非常に大きなストレスを感じました。依頼者様への誹謗中傷の書込みを精査し対応する中、今でも誹謗中傷されたことに対し苦々しい思いを抱きます。この想いを抱く度、依頼者の方はもっと苦しんでいることを肌で感じ、なんとか今よりも良い状態にしよう、会社に損害が発生しないようにベストを尽くそうと強く思います。弊所では、これまでネット上の誹謗中傷問題に力を入れ、数多くの事件を解決して参りました。中でも、法人のお客様からのご依頼が多く、法人に対する誹謗中傷問題については、経験と問題解決のノウハウに強みを持っております。私たちは、投稿の削除に限らず、削除が難しい案件についても改善のため挑戦いたします。皆さまのストレスを少しでも減らすため、最善の解決方法を考えサポートいたします。